「あの人らの会社って知ってる?」
「いや、詳しくは知らないすね」
「コンビニとかパチンコ屋さんとかの店先にのぼりが立ってたり横断幕が垂れ下がってたりするやん?」
「塔子さんの行動範囲を垣間見た気がする例えですね」
「確かによう行くけど」
「あとドラッグストアとかですね!」
「うん、そこもよう行く!」
「いや塔子さんの出没情報はもうええんです。そののぼりとか横断幕がどうしたんですか?」
「あぁそうそう。あんな感じのんを作ってる会社やねんて」
「あ、そうなんですね」
「うん。大阪でも結構おっきな会社らしいよ。自分とこの工場とかもあるってゆうてはった」
「へぇ、それであのハゲ散らかしたおじさまはそこの営業さんなんですね」
「そう。有岡さんてゆわはんねん」
「髪の毛は無いのに」
「それこそダジャレやん!」
「すいません、いらんこと言いました」
今度は話の腰を折った永島が謝罪する番だ。
「あの若い子たちの三人組は工場で作業してる現場の人やからあんまり成績とかは関係ないやん?よっぽど大きなミスとかせんかぎりは」
「そうですね。それはうちの会社でもおんなじようなもんです」
「でも有岡さんは営業さんで、それも結構ベテランやからノルマ的なんも結構きついらしいねん」
「どこも一緒ですね」
「それで去年かな、めっちゃ成績が悪かったらしくて」
「はい」
「その前の年が良すぎたから、反動でガターンと下がってしまったんやって」
「スポットで仕事が入ると確かに次の年はしんどいですよね」
「わたしはよくわからん世界やけど、たまたま大きなイベントがあってたまたまその仕事を受注できたのが良かっただけなんやって」
「毎年定期的にあるキャンペーンとかの仕事やったら売上も読みやすいでしょうけどね」
「そう。で、結局その定期的なん以外のプラスアルファが無かったから、ゆうたらそのもう一つ前の年ぐらいの成績に戻ってしまってんて」
「守るのも大変なことなんですけどね」
「それは桃ちゃんもゆうてた。でも会社には許してもらえなくて、週一回の会議で毎回社長さんから吊るし上げられてはったらしいねん」
「きついなぁ」
永島は暗い目をグラスに落とした。
有岡の境遇が今の自分に重なったのかも知れない。
「で、見かねた三人組がここに連れて来はってんけど、初めて顔見た時はびっくりした」
「びっくりした?」
「よう『死んだ魚のような目をしてる』ってゆうやん?あぁあれってこうゆう目のことを言うんやなって思った」
「そんなに・・・」
「うん。とにかく影が薄かった。髪はもっと薄かったけど」
「ゆうたらあかんやつやん」
今度はわたしがペロっと下を出して謝るそぶりを見せた。
「ほんで桃さんに会わはったんですか・・・?」
「そう。その人が来てはる時にありすママが桃ちゃんを呼び出してん」
「来てくれはったんですね」
「11時ぐらいに来はって、それから日付変わって3時過ぎまでここでしゃべってはったわ」
「長っ!」
「自殺しそうやったからなぁ。ママも桃ちゃんもほっとかれへんかったんちゃう?」
と言ってから「もちろんわたしもやけど」と、わたしは慌てて付け足した。