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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業  16

「その服お似合いですよ」

永島はもみ手をしながらそう言って、コント形式のロープレに入った。

 

「なんで服屋さんなん?サモアさんて印刷屋さんやろ?」

「いや、こうゆうのんて客と店員のほうがやりやすんですよ」

「やりやすいて、ただわたしとコントしたいだけなんちゃう?」

「なにゆうてはるんですか!あくまで目的は塔子さんに“イエス-バット話法”を伝授することです!服屋コントはあくまでその手段ですよ!」

もうはっきりコントゆうてしもてるやん、はわたしの心の中のつぶやきだ。

少なくとも目的と手段について桃の言葉は間違いなく彼に届いているのがわかっただけでも良しとしよう。

わたしは自分を奮い立たせた。

 

「はい、もっかい最初からいきますよ!」

どこの演出家やねん、まったく。

 

「いやぁ、お客さん!よう似会(にお)てはりますわぁ!」

誰が買うねん!そんなこてこての商売人みたいなんがおる服屋で!

 

「え?おんなじのん持ってる?ほな色違いでどないです?」

なんでやねん!どこの設定広げてんねん!

 

「ちょっと!塔子さん!」

「え?なに?」

「『なに?』やないですよ!ぼーっと黙ってんと会話してくれんと!」

「あ、そうか」

わたしは我にかえった。

 

つっこみどころ満載の永島劇場だったため、ついつい心の中でつっこむことのほうに集中してしまっていた。

 

「ごめんごめん。でもさぁ」

わたしはまず謝ってから、思っていることを口に出した。

 

「服屋さんであんまり店員さんとしゃべることないねんなぁ」

「なんでですか?めっちゃ話しかけてきはるでしょ?」

「けえへんで。来るなオーラ出しまくりで選んでるからかな」

「そうなんですか!アドバイスとかもらわへんのですか?」

「もらわへんよ!なんのアドバイスをもらうんよ」

「いや似会ってるかどうかとか、流行りはどんなんやとか」

「似会ってるかどうかなんか自分で決めるし。流行りなんか聞かんでも知ってるし」

「僕、聞きまくりますわ」

「めちゃしゃべんの?」

「めっちゃしゃべります」

「そんなしゃべることある?え?ひょっとして美容室とかでもしゃべる人?」

「もちろん!ずっとしゃべってますよ!暇ですやん!」

「ちなみに男の人って『今日はどうされますか?』って言われたらなんてゆうん?」

「あ、僕は座るなり『男前にして』ってゆうだけです」

思わず噴き出してしまった。悔しい。

 

「いや、まぁでもサモアさんらしいっていえばらしいね」

「そうですかぁ?ありがとうございます」

「うん。褒めてないよ」

「ちっ!やっぱりそうか」

「でもサモアさんはしゃべってると楽しいから店員さんも喜んではるかもね」

「それは嬉しいですね!」

「うん。わたしもサモアさんとしゃべるのは楽しい」

「塔子さんにゆうてもらえるのはめっちゃ嬉しいですわ!」

「ところでコントはどうする?」

「あ、そや!早よしましょ!」

「服屋さんでないとあかんの?」

「あかんことはないですけど、わかりやすいですやん!」

「そうなん?ほんだらええけど、『似合ってますね』ゆわれてなんてゆうて返したらええんやっけ?」

「『でも値段がちょっと高いなぁ』みたいな感じですね」

「それコントでせなあかん?」

「やりましょうよ!」

「はいはい。ほないくで。『でもちょっとお値段が高いんです』」

「もっと感情を入れて欲しいところですが、そこは素人さんなんで我慢しましょ」

おまえはいつプロの芸人になってん!はもちろん心の中だ。

 

「『確かにお高いですよね。でもねお客さま、それにはわけがあるんですよ』」

「で?」

「は?」

「いや『は?』じゃなくて、それなに?」

「だから“イエス-バット話法”ですよ!『確かにお高いですよね』の部分が“イエス”で、『でもね、お客さま~』のほうが“バット”の部分です」

「それはわかるよ」

「え?」

「それはさっき桃ちゃんがゆうてくれてたやん。それでどうやって買う気になんの?って話やん」

「あぁ、そこですね!大丈夫です。続きをやればわかります。塔子さん、僕から服を買いたくて仕方なくなりますよ!」

圧倒的に嫌な予感しかしないのだが、わたしはもう少しだけ付き合うことにした。

 

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

  2. 第三章 営業  16

  3. 第三章 営業  15

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