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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業  7

「でもやっぱり営業ってしんどいゆうか、なかなかそう簡単には成果は上がらんもんやゆうことですよね」

永島は諦めたように笑いながら言った。

 

「てゆうか、そもそもサモア君はどんな感じで飛び込みしてるの?」

「どんな感じ?」

「そう。一回おれを新規の営業先や思て営業してみてよ」

「桃さんに、ですか?」

「うん。『コント“飛び込み営業”』みたいな感じで」

桃が若手芸人のように右手を高々と上げて、嬉しそうに永島を促した。

 

「じゃ、ちょっと失礼して」

永島は一旦立ち上がり、「すいません、失礼します」と言いながら改めて桃の前に座りなおした。

 

「突然お忙しいところすいません」

永島が即興コントを始めた。

 

「はぁ。受付からは『印刷屋さんが来ている』と聞きましたけど」

桃も役に成りきって応える。

 

「はい。印刷屋は印刷屋なんですけど、印刷以外でもなんでもやらしてもらいます」

「なんでも・・・?」

「はい!もうなんでもやらしてもらいます!」

「例えばどんなことをやられているんですか?」

 

そこで永島は自分のカバンの中から会社案内らしき冊子を取り出し、中ほどのページを開けながら「主にこういったものですが、これ以外でもどんなご要望にもお応えできます!」とひときわ大きな声で言い切った。

 

「あぁ、そうなんですね」

桃は渡された冊子を一旦受け取り、すぐに閉じるとカウンターにそっと置いた。

 

「わかりました。なにかあればお声をかけさせていただきます」

「はい。ではよろしくお願いします!」

「今日はありがとうございました」

「こちらこそお時間ちょうだいしましてありがとうございました」

永島はそう言うと、椅子から降りて扉のほうに歩き去って行った。

 

「いや、終わってしもとるやないかいっ!!」

桃が大声でつっこんで、即興コントは幕を下ろした。

 

「だいたいあんな感じです」

永島が戻ってきて、そう言いながら椅子に腰掛けた。

心なしか、やり切った感が顔に見てとれる。

 

「サモア君はいつもあんなことしてんの?」

桃が怪訝そうに尋ねた。

 

「とんでもない!」

永島が大声で訂正する。

 

「あんなふうに会って話をしてもらえることなんて10回のうち3回あったらええほうですよ」

「お、おう。そうなんや」

どうやら桃が思っているよりもさらに外側からの返答だったようだ。

得意そうな永島ととまどう桃の顔の対比がたまらない。

 

「なかなか独特な営業スタイルやねんな」

桃はやっとといった感じでその言葉を搾り出した。

 

「どっか修正したほうがええとこありますかね」

永島が尋ねる。

 

「いや、まぁなんとゆうか。元気なとこは良かったんちゃうかな」

「やっぱりおかしいですかね」

「おかしいゆうか、『なんでもやります!』はサモア君の考えたフレーズ?」

「いえ。社長が『これで行け!』って全員に指示してはります」

「またうわさの若社長か」

「あ、でもこの『なんでもやります!』スタイルは先代からの流れですけどね」

「サモア君の会社の伝統ゆうやつか」

「そうです。伝統です」

「なるほどね」

桃は思案顔で黒霧島をひとくち含んだ。

 

「先代はこのスタイルで一代で会社を興してここまでそこそこの規模に成長させてるんで、二代目もそれをそのまま踏襲してるんです」

「うん」

「営業のやり方、間違ってますかね」

「“飛び込み”ってやり方は相手の時間を捥ぎ取ってしまう行為やと思ってるので、おれ個人は好きではないのよね」

「あぁ、やっぱりそうですか」

「あくまでおれが好きではないってだけやからそない落ち込まんでもええやん」

桃はそう言って永島に笑いかけた。

 

「さて、『あくまで個人の感想です』のコーナーやけど」

と、桃が初めて聴くコーナー名を口にした。

 

「あ、そんなコーナーできたんですね」

永島もそういいながら、しかし何となく居住まいを正した。

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

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