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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業  13

桃はまず永島が決して努力を怠っていたわけではないことを認め、次にその努力が一切無駄にならないことを伝えた。

そして今度は努力を向ける方向を指し示している。

 

永島の顔は活気に満ちてきているが、だがしかしこれですべてが解決したわけではない。

 

ひとつ問題をクリアすれば当然また次の問題が待っている。

果たして、永島は眉を寄せて考え込む表情に変化していった。

 

「桃さん。“技術を磨いて”、“市場を見つける”ってゆう“準備”の部分が大事で、僕にはそれが無かったんやゆうのは理解できました」

「うん」

「恥かきついでに教えてください。僕に足りないその二つはどうやって身につけたらええんでしょうか」

確かにここまで桃が話した内容は一般論だ。

永島はそこからさらに踏み込んで、“自分はどうすればいいのか”まで教えを請おうとしている。

 

わたしは静かに桃の言葉を待った。

 

「サモア君の会社の仕事を100%理解してるわけやないから中途半端なアドバイスが君のためになるんかどうかわからんからなぁ」

「それでもええんで、なんか教えてください」

「“市場”のほうはもうちょっとサモア君の会社がしてはる仕事の情報を教えてもろてからやな」

「ほな“技術”のほうだけでもええんで今すぐ教えてください!」

「うちらの上の世代やったら間違いなく『自分で考えろ!』って怒鳴られてる流れやな」

「今のうちの会社でもそんなもんです」

「そうなん?」

「はい。パワハラなんて日常茶飯事です」

「コンプラをきちんとしてんのってベンチャーぐらいやからな」

「いや、大手さんのがしっかりしてはるでしょ」

「そない思うやろ?実際はぜんぜんそんなことないねん」

「マジすか!」

「それはそれで興味ある話やけど、また営業とは逸れてってますよぉ」

わたしはポイントを操作して脱線しそうな話を元の路線に戻した。

 

「おぉ、こりゃまた失敬!」

と桃は言った。

なんとか戻って来れそうだ。

「パワハラの話は一旦置いといて、営業の“準備”の話に戻ろか」

「はい!お願いします!」

永島ははっきりと良い返事をした。

 

「うん。ほな“技術”の話ね。さっきサモア君は“トークスキル”ゆうてたけど、それだけやないねん」

「他に技術とゆうと・・・」

「トークスキルはもちろんだいじやけど、裏付けがないとめっちゃ薄っぺらいトークになってしまうねん」

「裏付け、ですか」

「そう。んでその裏付けに必要なのは“自信”と“知識”やね」

永島は考え込むように、目を閉じた。

 

「“自信”と“知識”て、なんのですか?」

永島は考えても答えが見つからなかったらしく、潔く降参した。

 

「『自分』、『会社』、『仕事』、『商品』」

桃は四つの単語だけを、永島に伝えた。

永島は黙って、完全に聴く姿勢に入っている。

 

「この四つそれぞれに対する知識を徹底的に深めて、四つそれぞれに自信満々になる。何を言われても動じない、何を訊かれても即答できる、それぐらいになる。

そうするとお客さんと話をしててもしっかりと伝わる。そないなったら逆にトークなんか下手くそでもええねん。きちんとした知識に裏付けされた自信満々のトークは、例え話ベタであってもちゃんと伝わるから。

“質問話法”とか“イエス-バット話法”とか、そんな小手先のテクニックなんかいらんねん。土台をしっかりした上でそんなんの勉強するならまだしも、そうでなかったらそんなん邪魔でしかない」

桃は一気に喋りきった。

 

「ええで。言いたいことはどんどんゆうてや」

口を挟みたそうな永島の顔に気づいて、桃はターンを永島に渡した。

 

「今桃さんの話に出てきた“質問話法”とか“イエス-バット話法”って、僕の読んでる本にはだいたい紹介されてます。強力な武器になりますよ!的な感じで」

桃は黙って先を促した。

 

「“技術”ってゆうとやっぱりそんなんとかを勉強するもんやないかと思うんですけど・・・」

永島は恐る恐る、しかしはっきりと聴きたいことを質問した。

 

多分にこの辺りが桃に気に入られている永島の良いところなのであろう。

 

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

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