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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業  12

「なにゆうてんねん!褒められたんは事実やねんから、そこはありがたく褒めてもろといたらええねん」

桃が永島を勇気付ける。

 

「それでええんですかね」

「サモア君が忘れんと本質を理解しとけばええだけの話や。若社長が『おんなじ3割や!』ゆうて部下の頑張りを喜んではるんやったらそっとしといたったらええねん」

「もちろん僕から社長の間違いを正しに行くなんてことはないですけど」

「うん。行かんでええよ。サモア君にゆわれたところで聞く耳も持たはらへんやろうから」

「そうですね。じゃあ頑張ってるってことに対して褒めてもろたぐらいに思(おも)ときます」

「そやけど若社長も売上が下がって焦りすぎていろいろ見えへんようになってしもてはるんやろな」

「桃さんもそう思わはりますか?」

「でないと『3割も会えてようやった!』とはならんやろ」

「5割以上は最低でも会えんとあきませんよね」

「いや、それも違う」

「5割でも低い?ほな7割とか8割は要りますか?」

「ちゃうねん。“会う”こと自体が目的になってしもてることが問題なんよ」

「あ!」

「思い出した?こないだもゆうてた“目的”と“手段”の話しなんよ」

「そうですね。飛び込み営業の話でゆうと“会う”のは“手段”であって“目的”ではない」

「ないゆうか、そんなんを目的にしたらあかんわな」

「“目的”はあくまで“お仕事をもらうこと”」

「わかってきてるやん!」

「なんか成長を実感しますわ!」

自分でゆうんかいっ!はわたしの心の中のつっこみだ。

桃には見透かされていたようで、わたしを見て彼も唇の端で笑っていた。

 

「さて。ほなそろそろちょっとマジメに話をしょうか」

桃は先ほどとは打って変わって真剣な表情になって永島に向き合う姿勢を取った。

 

「“準備”の話、な」

「はい」

永島も背筋を伸ばして聴き入る姿勢を取った。

 

「サモア君は営業の公式って知ってる?」

「いや、知らないです」

永島は素直に即答した。

桃は少し苦笑いをしながら、続けて言葉を発した。

 

「『技術×市場×行動量』」

「『技術×市場×行動量』・・・?」

永島は確認するように繰り返した。

 

「そう。これが公式」

「説明をお願いしていいですか」

永島はとことん素直だ。

桃もそう思ったのか、永島の目を見ながら一度だけ小さくうなずいて続ける。

 

「そのままやで。自分のスキルを磨いて、自分の扱う商品が売れるマーケットを開拓して、あとはひたすら行動する」

「それが営業の公式・・・」

「そう」

桃はグラスの中の液体をひとくち飲んでから、さらに続ける。

 

「だいじなんはこの公式が“足し算”やのうて“掛け算”やゆうこと」

「掛け算!」

「“掛け算”であることの意味わかるかな。3つの要素のうち1つでもゼロのもんがあったらあとの2つをいくら頑張っても、答えは“ゼロ”になるゆうことや」

「あ・・・」

「わかった?サモア君の頑張りが成果となって現れへん理由が」

「鳥肌立ちました」

永島は本当に寒そうに自分を暖めるようなしぐさをした。

 

「『技術×市場×行動量』の意味、わかってくれた?」

桃は優しく、永島に尋ねた。

 

「いや、めちゃめちゃ理解しました。僕のやってることを数値に当てはめてみると『技術(1)×市場(0)×行動量(10)』ぐらいやと思います。そら結果なんか出ませんわ。答えは“ゼロ”ですもん」

「まぁ技術が“1”ゆうようなことはないやろうけどな」

「いやいや、技術なんかないに等しいですよ」

「せめて“1.2”ぐらいはあるんちゃう?」

「結局低っ!」

「まぁどちみち答えは“ゼロ”やけどね」

「ホンマですやん!」

永島は軽くカウンターを叩いて悔しがった。

 

「あぁ、でもこの公式を教えてもろてやっとわかりました。さっきのカリスマ営業マンたちはそれぞれの要素の数値が高いんですね!」

「そゆこと」

「抜群のトークスキルを使って、売れるマーケットを調査したうえで、そこでしっかり行動する。『10×10×10』なんか無敵ですもんね」

「そら本も書けるわな」

「いや、桃さんも書けますよ」

まったくその通りだと、わたしも思った。

 

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

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