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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業  14

「まぁそらあんなん使いこなせたらカッコええよな。本に出てくるカリスマ営業マンはペコペコすることもなく、さっきゆうたような応酬話法を颯爽と使いこなしてスマートに受注していくもんな」

「はい。あんなふうになりたいです」

「ホンマ素直な子やな」

桃は思わず笑ってしまっていた。

ただしかし嬉しそうな笑顔だ。

これも永島が天性で持ち合わせているものが生み出した“緊張と緩和”なのだ。

 

「あんなふうになりたいんや」

「なりたいです!」

永島が強く言い切った。

 

「確かにあんな感じで仕事こなせたらまずカッコええし、お客さんと対等な立場っぽいし、何よりめっちゃ楽できるように見えるもんな」

「楽そうやなって思ってるのも事実です」

「そんな真剣なまなざしで“怠けたい願望”をカミングアウトされてもどうしてええかわからんわ!」

桃はまた笑った。

永島と話す時の桃は本当によく笑う。

妬けてしまうほどに。

 

「使いこなすには条件があるで」

桃は嬉しそうな顔を隠さずに永島に話を続ける。

 

「条件ですか?」

「そう。条件」

「どんな条件でしょう」

「相手が素人であることと、サモア君が今持ってる “自分の良さを捨てる”こと」

「それが条件・・・?」

「そう。それが条件」

「二つ・・・?」

「とりあえず最低でもこの二つ」

「てか、相手はまず素人でないと使われへんのですか?」

「そうね。もっと詳しくゆうと『ろくに勉強もせえへんのに欲の皮だけが突っ張ってる素人』やね」

「なかなかパンチの効いた素人ですね」

「あとは人の良さそうなお年寄り、とかもええかもね」

「素人の・・・?」

「そう。素人の」

「なんか・・・。騙す前提・・・?」

「おおっ、さすが!ええとこに気づいたね」

「だって桃さんのゆうてはる“素人”って、詐欺のニュースとかで絶対出てくる被害者さんですやん」

「そやで。騙せやすそうやろ?」

「騙すって・・・」

永島は絶句した。

ここまで桃に対して懐疑的な目を向けた永島は初めてだった。

「桃さん、すいません」

永島はしばしの沈黙のあと、気を取り直したように桃に話しかけた。

 

「わかってくれてはるとは思いますけど、僕は別に詐欺師になりたいわけやないです」

悲痛な叫びとも取れるような、永島の訴えだった。

 

「そうね。もちろんわかってるよ」

桃は笑顔で、優しい声で言った。

 

「サモア君が詐欺師志望でないこともわかってるし、応酬話法を使(つこ)てはる人がみんながみんな詐欺師やてゆうてるわけでもない」

永島は黙って桃を見る。

 

「もしサモア君が応酬話法を使って通用するとしたら、相手はそうゆう系の素人さんしかおらんよって話」

桃は優しい表情を崩さないまま言った。

 

「素人以外には僕に使いこなすことは無理ってことですか」

永島がまた沈んだ声になる。

感情の起伏がジェットコースター並みなのは彼の通常運転だ。

 

「応酬話法ゆうのはな」

桃の目から優しさが消えて真剣モードに代わった。

 

「応酬話法は基本的に相手をコントロールする為の手段やゆうことを忘れたらあかん」

「コントロールする・・・」

「そう。自分の思う通りに相手を誘導するゆうこと。本にもそない書いてあったやろ?」

「そうですね。そんな感じの説明が多かったです」

「それが応酬話法」

「それが応酬話法・・・」

「そやで。失礼やと思わんか?」

「失礼?」

永島が聴き返した。

 

「そや!おれのことを言葉ひとつでコントロールできる人間やと思てるゆうことやろ!」

「桃さんにはさすがに通用しなさそうですね」

「たまにおるねん。訪問販売とか家電量販店とかにおる兄ちゃんで」

「あぁ、おりそう」

「『これ欲しいけど高いなぁ』『そうです、高いですよね。でもねお客さま・・・』とか“イエス-バット”の“イ”が見えたぐらいでどんなけ欲しても『やっぱりいらんわ!』ゆうてすぐ帰ったんねん」

「早っ!」

桃の一人コントにわたしがすぐさまつっこみを入れ、しばし三人は笑い合った。

が、しかし永島のそれは明らかに固くぎこちないものであった。

 

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

  2. 第三章 営業  16

  3. 第三章 営業  15

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