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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第一章 邂逅  4

ありすママは水曜日はたいがい彼氏とゴルフに行っていてお店には顔を出さない。

女の子もレギュラーのわたし以外は一人だけ当番制で出勤だが、あとは交代でお休みの日だ。

 

ただでさえ客の少ない水曜日のうえ、雨が重なればそれこそ開店休業状態・・・のはずだった。

 

ゆっくりと二人の会話を楽しもうと思っていたのに、

今日に限って近くの染物工場の社員3人組みが来店してきた。

 

それはまだいい。

彼らの目当ては今週の出勤当番の愛ちゃんだ。

愛ちゃんがすぐにカラオケモニター前のボックス席に案内して、接客を始める。

 

計算外はその後に近所のカイロプラクティック院を経営するスケベ院長まで来てしまったことだ。

 

わたしに気があるその院長は、扉を入ってすぐのお気に入りのボックス席にカウンターのほうには一瞥もくれずにささっと陣取り、わたしがかけつけてくるのを後ろ向きに待っている。

 

「しばらく任せていい?」

わたしは二人に悲しそうなウインクを一つして、仕方なく院長の待つボックス席に歩き出した。

もちろん「わたしもずっと会いたかったんです!」感満載の笑顔には途中でしっかりと着替えを済ませていた。

 

その後もわたしはスケベ院長からの執拗なセクハラ攻撃をかわしながら、水だ、おしほりだ、灰皿だと、何かにつけてカウンターに近づいたが、大笑いで繰り広げられる桃と永島の楽しそうな会話にはとうとう参加することは出来なかった。

 

平日ということもあり、工員たちは決して上手いとは言えないカラオケと、入店間もない初々しい愛ちゃんとの会話を存分に楽しんで、0時前には帰路についた。

 

スケベ院長も、いつもは桃の前から一向に離れようとしないわたしを今日はたっぷり独り占め出来たとあって閉店のかなり前に大満足で帰っていった。

 

エレベーターまで見送って扉を引いた時、ちょうど中から出ようとしていた永島と鉢合わせになった。

桃はまだカウンターで、洗い物をしている愛ちゃんと楽しそうに話している。

 

わたしはそのまま永島を見送りに行くことにして、エレベーターの下向きになった三角ボタンを押した。

 

「今日はわざわざありがとうございました」

わたしはまずかしこまってお礼を言った。

 

「いや、呼んでくれて良かった」

永島は、エレベーターが各階を通過して上ってくるランプを見上げながら、答えた。

 

「桃さん、って人?会えて良かったわ」

永島はわたしの狙い通りのセリフを、まだ見上げたままポツリとつぶやいた。

 

「また来週もいてるってゆうてはったから、俺も来週また来るわ!」

この言葉はしっかりとわたしを見てから笑顔で告げて、彼はエレベーターに乗り込んだ。

 

店内に戻ると愛ちゃんが「わたしも今日は上がっていいですか?」と聞いてきた。

さきほどの工員くんたちの一人が外で待っているのかもしれない。

 

「いいよ、おつかれさま。」

余計なことには触れずそう言うと、愛ちゃんは嬉しそうに帰り支度をして急いで出て行った。

 

「もう一杯だけ飲んで帰ろかな」

彼女を見送ったわたしが振り返ると、桃はロックグラスを目の位置に掲げてわたしに合図した。

 

「どうやった?」

グラスに氷を入れながら、わたしは桃に尋ねた。

 

「思てたとおり、おもろい子やん」

彼は即答した。

 

「ええ子やし楽しいからもうちょっと話を聴いたろと思て」

彼は続けた。

「来週も待ってるからまたおいでてゆうといた」

 

「みたいやね」

わたしが答える。

「来週も会えるゆうて嬉しそうにして帰っていきはったわ」

 

ひとまずの目的は果たされた。

来週こそわたしも二人の会話に参加しよう。

 

そして、永島が良くも悪くも変化していくさまを、桃と一緒に楽しませてもらおう。

 

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

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