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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業 5

「ぷはーっ!」

グラスを飲み干した永島の口から満足そうな声が発せられた。

 

「やっぱりたこ焼きには炭酸系がよう合いますね!」

やけども癒えたのか、すっかり上機嫌だ。

 

「2杯目からこそっとカルピスソーダにしてくれる塔子さんは凄すぎますわ!」

「恐れ入ります」

わたしは答えてから、

「それをゆうなら青海苔抜きにしてくれてる桃ちゃんこそグッジョブ!」

と桃に向かって言った。

 

桃は軽くウインクをしながらぐっと親指を立て、そして読んでいた本を永島に返した。

 

「炭酸系がたこ焼きに合うゆうんはなんの異論もないけど、普通はそこはビールやけどな」

今日の桃はいつもの黒霧島ではなく、生ビールを飲みながらたこ焼きをつまんでいる。

 

「いや、あんな苦いもんどこが美味しいんですか!ソースは辛いんですから相方は甘いものってゆうのが正解ですよ!」

「そんな甘いもんばっかり飲んでるからぶくぶく太んねん」

「ぶくぶくて、失礼な!」

「だいたい粉もんに甘い飲みもんて、君はどんなけ増量したいねん」

「桃さんが食べさしたんですやん!」

「16個入りを2パックも食べるて、いったいなんの役作りやねん」

「美味しかったんですもん」

「まぁほな良かったけど」

「ホンマごちそうさまでした」

「ええよ、これぐらい。おれに会うのを楽しみに早よから待っててくれてたみたいやし」

「なんで知ってはるんですか?」

言ってから永島は気づいたようにわたしを見た。

 

小刻みにうなづき返すわたしに、永島も笑った。

「塔子さん、連絡してくれはったんですね」

「無い首を長くして待ってはるから早よ来いゆうてLINE入った」

「確かに無いですけど」

永島は右手でえり首あたり触るポーズをしながら笑った。

ただ彼が触った箇所は、一般的には後頭部と呼ばれるところだなと、わたしは思った。

 

「さて、ほんで待っててくれたのはその持ってきた本のことかな」

桃が永島に返した本を指差しながら尋ねた。

 

「本とゆうか、ここにも書いてある『営業』についてお話が聞きたいと思ってます」

「うん。『来週はそんな話しよか』って、先週ゆうてたもんな」

「はい。ご存知の通り僕はダメダメ営業マンなんで、桃さんに教えを請いたいと思います」

「いやいや。おれはそんな営業で金字塔を打ち立てたカリスマ営業マンでもないし、ノウハウ本を書いてるコンサルタントでもないで」

「昔営業をされていたとか・・・」

「サラリーマンの時に営業も現場も人事も、ひと通り勉強さしてもろたゆうだけや」

「敏腕営業マンやったんでしょ?」

「サモア君ほどダメダメやなかったってぐらいやって。完全ノルマ制の会社で庶民に百科事典や英会話教材を売りつけてたこともないし、セレブ相手に高級車や不動産を売りまくってたわけでもない」

「ほんなら何を売ってはったんですか?」

「営業やってたころはいろんな会社でいろんなもん売ったで。飛び込みもようやったしな」

「飛び込み営業もしてはったんですか?!」

「してたよ、ぜんぜん」

「あぁ、そうなんですね」

「サモア君は現在進行形で飛び込み営業してんの?」

「僕は印刷会社なんでBtoBの営業なんですけど、雑居ビルの最上階にある会社から順番に下まで飛び込んで行ったりしてますね」

「うわっ、めっちゃ迷惑」

そう言って桃は笑った。

 

桃と永島の会話・営業編が始まった。

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

  2. 第三章 営業  16

  3. 第三章 営業  15

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