「うーん」
桃は頭をボリボリと掻いてうなった。
桃には珍しい仕草だ。
「本を読むことががんばってることになるんかどうかおれにはわからんけど」
と前置きし、
「一つ言えるのは、本を読んだからって成功するとは限らんけど、読まんやつよりは遥かに成功する確率は高なるで。だから無駄やないよ。」
永島は黙って桃の次の言葉を待っている。
「そもそも『自己啓発』の意味知ってる?」
永島は急いでスマホを取り出した。
わからないことはグーグル先生に聴くのが一番だ。
「Wikipediaには『自己啓発(じこけいはつ)とは、自己を人間としてより高い段階へ上昇させようとする行為である』って書いてあります」
永島はなぜか誇らしげに言った。
「なんで君が偉そうにしてんのかはわからんけど、とにかくそやねん。『自己啓発』と『成功』には明確な相関関係はないねん」
「あ、なんか急に漢字多いですね」
「ちょっと続いただけやないか。だいたいやな・・・」
「ちょっと、二人とも!」
脱線する気配を感じてわたしが制した。
桃は渋々といった感じで話を本題に戻す。
「まぁ要するに、自己啓発がんばったら『ええ人』にはなれるけど、例えば『億万長者になれます』なんて誰もゆうてへんねん」
「あ、確かにそうですね」
「でもな。『信頼される人』にはなれんねんで。『ええ人』ってゆうのは『信頼される人』ってことやからな。そんでそんな人の周りには人も集まってくるし情報も集まってくる。もちろん最終的にはお金も集まってくるようになるねん。これはもう絶対的な紛れも無い事実やねん。」
「そしたらやっぱり課題したり習慣づけたりとかしたほうがええゆことですよね?」
「できるんやったらしたらええ。もちろんそれが一番や」
「話が一周しましたね」
「そやねん。結局そこへ行くようになってんねん。そやから書く側の人も手を変え品を変えいかにも『この本読んだら楽に成功できる方法がわかりますよ』みたいな感じで本を売ってはんねん」
「できますかね、僕に」
「でけへんやろな、君には」
「やっぱりそう思いますか?」
「いやいや、流れで『君には』て足したけどみんなでけへんよ」
「『成功』自体を諦めるしかないってことですか?」
「諦めたら試合終わってしまうて太っちょの先生に教えてもらわへんかったか?」
「確かに僕ら世代の日本中の男子が教わってますね」
「そやろが」
「でもどうしたらええんかがさっぱりわかりません」
永島はまた泣きそうな顔になってしまっている。
「だからそんな悩まんでも大丈夫やって」
「なにが大丈夫なんかもわかりません」
「君はもう“わかってる“から大丈夫やねん」
「“わかってる“・・・ですか?」
桃は永島を見てにっこり笑った。
「そやで。どうしたらええかってのはもう君の頭の中にすっかり入ってんのよ」
「頭の中・・・?」
「そう。今まで君がやってきたことは決して無駄やなかったし、諦めて試合終了になることもない」
桃はそう言って、もう一度永島を見てにっこりと笑った。