おどろきとおもしろさとおもいがつまったアイテムが揃うストア

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第二章 啓発  6

「使い方ですか?」

永島が怪訝そうに尋ねた。

 

「うん。そう!」

桃が好物のクッピーラムネの包みを両手で引っ張りながら答えた。

 

「書いてあることを実践する・・・ゆうことですね」

永島が思い出したように口を開いた。

「確かにどの本にも『行動が大事だ』って書いてありました!」

 

「うん。まぁ正解」

桃はポリポリとクッピーラムネを口に放り込みながらそう言うと、永島のほうに向き直った。

「ホンマにそれが出来るんならね」

 

「え・・・?」

永島はポカンと口を開けてしまった。

 

「どういうことですか?」

永島は問いかける。聴かずにはいられないといった顔になっている。

 

「自己啓発ってさぁ」

桃は話し始めながら、二人の間に置かれた乾きものの入ったカゴの中から次のクッピーラムネを手にとった。

今度は黄色いセロファンだ。

 

「自己啓発ってしんどない?」

永島に笑いかけながら、開いてみると変わらず白かったクッピーラムネを口に入れた。

 

「しんどい・・・とは?」

永島が先を促している。

 

「先にゆうとくわな。あ、でもこれはおれの意見やからな。今テレビの画面には『あくまで個人の感想です』ってスーパーが右下に入ってると思てな」

「は、はぁ」

「自己啓発ってしんどいのよ。なんか『毎日課題せえ!』とか『7つも8つも習慣づけろ!』とか」

「あ、そんなんありましたね」

「いつも読んでて思うのよ。こんなんホンマにするやつおんのか?って」

「そらおるんちゃいますか」

「おるかなぁ?」

「いやおるでしょ!」

「そうか、おれがひねくれてるだけか」

「やと思います」

「はっきりゆうやないか」

「恐れ入ります」

「そやから褒めてないねんて!」

「桃ちゃんもサモアさんもその件(くだり)はもうええから、続きは?」

わたしは堪らず割って入った。

 

「あと『なんちゃらが9割』とかも多すぎて意味わからんねん」

「あぁ本屋さん行った時、似たようなタイトルはようけ並んでましたね」

「10割で満タンのはずやのに9割だらけで訳わからんし!」

「確かにパッと見えただけでも全部足したら27割になりました」

「そやろ。1個当たったらみんなそればっかり狙うからな」

「やっぱり売れるんでしょうね」

「サモア君みたいなんがネギしょってやって来るからな」

「それは成功したい人がいっぱいおるからじゃないですか?」

「そらもちろんそうやねんけど、その本のゆうとおりにしてホンマに成功できんのか?」

「いや、それはそうなんじゃないですか」

「そやねん。みんなそこはふわっとすんねん」

実践していない永島も、そこは黙るしかない。

 

「ええねん、ええねん。そんなんたぶんみんなしてないんやろうと思うねん」

「言い切りますね」

「そやから画面には『あくまで個人の感想です』て出してるやん」

「視聴率ゼロ%ですけどね」

「そんなも・・・」

「また脱線した!」

桃がそっちで話を広げかけたのを察して、慌ててわたしが修正する。

 

「ほれみろ!また塔子ちゃんに怒られたやないか!」

桃は永島のせいにして彼をひと睨みしたあと、仕方なく話を元に戻しそうとした。

 

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

  2. 第三章 営業  16

  3. 第三章 営業  15

RELATED

PAGE TOP