「使い方ですか?」
永島が怪訝そうに尋ねた。
「うん。そう!」
桃が好物のクッピーラムネの包みを両手で引っ張りながら答えた。
「書いてあることを実践する・・・ゆうことですね」
永島が思い出したように口を開いた。
「確かにどの本にも『行動が大事だ』って書いてありました!」
「うん。まぁ正解」
桃はポリポリとクッピーラムネを口に放り込みながらそう言うと、永島のほうに向き直った。
「ホンマにそれが出来るんならね」
「え・・・?」
永島はポカンと口を開けてしまった。
「どういうことですか?」
永島は問いかける。聴かずにはいられないといった顔になっている。
「自己啓発ってさぁ」
桃は話し始めながら、二人の間に置かれた乾きものの入ったカゴの中から次のクッピーラムネを手にとった。
今度は黄色いセロファンだ。
「自己啓発ってしんどない?」
永島に笑いかけながら、開いてみると変わらず白かったクッピーラムネを口に入れた。
「しんどい・・・とは?」
永島が先を促している。
「先にゆうとくわな。あ、でもこれはおれの意見やからな。今テレビの画面には『あくまで個人の感想です』ってスーパーが右下に入ってると思てな」
「は、はぁ」
「自己啓発ってしんどいのよ。なんか『毎日課題せえ!』とか『7つも8つも習慣づけろ!』とか」
「あ、そんなんありましたね」
「いつも読んでて思うのよ。こんなんホンマにするやつおんのか?って」
「そらおるんちゃいますか」
「おるかなぁ?」
「いやおるでしょ!」
「そうか、おれがひねくれてるだけか」
「やと思います」
「はっきりゆうやないか」
「恐れ入ります」
「そやから褒めてないねんて!」
「桃ちゃんもサモアさんもその件(くだり)はもうええから、続きは?」
わたしは堪らず割って入った。
「あと『なんちゃらが9割』とかも多すぎて意味わからんねん」
「あぁ本屋さん行った時、似たようなタイトルはようけ並んでましたね」
「10割で満タンのはずやのに9割だらけで訳わからんし!」
「確かにパッと見えただけでも全部足したら27割になりました」
「そやろ。1個当たったらみんなそればっかり狙うからな」
「やっぱり売れるんでしょうね」
「サモア君みたいなんがネギしょってやって来るからな」
「それは成功したい人がいっぱいおるからじゃないですか?」
「そらもちろんそうやねんけど、その本のゆうとおりにしてホンマに成功できんのか?」
「いや、それはそうなんじゃないですか」
「そやねん。みんなそこはふわっとすんねん」
実践していない永島も、そこは黙るしかない。
「ええねん、ええねん。そんなんたぶんみんなしてないんやろうと思うねん」
「言い切りますね」
「そやから画面には『あくまで個人の感想です』て出してるやん」
「視聴率ゼロ%ですけどね」
「そんなも・・・」
「また脱線した!」
桃がそっちで話を広げかけたのを察して、慌ててわたしが修正する。
「ほれみろ!また塔子ちゃんに怒られたやないか!」
桃は永島のせいにして彼をひと睨みしたあと、仕方なく話を元に戻しそうとした。