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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第二章 啓発  4

「僕、実は部長に憧れてたんです」

やっと口を開いた永島に対して、

「『実は』付けんでも流れでわかるから大丈夫」と桃が笑いながら付け足す。

 

「部長みたいになりたいって思って結構努力したんです」

「ほう、例えば?」

わたしも気になる。

 

「部長、めっちゃ本を読んではったんです。それでとりあえず僕も本を読むことから始めようと思って、どんな本を読んだらええか部長に聞いてみたんです」

「部長はなんて?」

「なんでもええって言われました」

「うん、おれでもそうゆうな」

桃が笑う。

 

「それでも自分ではわからんのでってしつこく聴いたら、『でかめの本屋さん行って、自己啓発書のコーナーでおもしろいと思ったタイトルのん1冊選んで読んでみ』って言われたんです」

桃がいつものように視線で先を促す。

 

「おもしろそうな本なんかわからんので、ネットで調べて『おすすめ自己啓発書20選』みたいな中からその時本屋さんにあったのを10冊ぐらい買って帰りました」

 

「ぜんぶ読んだの?」

わたしが聞くと、永島は「読みました」とこちらを見て力強く答えた。

 

「おもろかった?」

と今度は桃が尋ねた。

 

「いえ、正直あんまりおもしろくはなかったですね」

永島はバツが悪そうに答えた。

 

「うん、まぁそうやろな」

と、桃は黒霧島のロックを飲みながら笑っている。

 

「なんででしょう。ネットの記事にはいかにもおもしろいって感じで薦められてたのに」

「まぁネットの記事の件はそのうちまた話しする機会もあるやろうけど、そんなことより興味の無い本はなんぼ薦められてもおもろいと思われへんよ」

と、桃が今度は永島を見ながら言った。

 

「部長さんは『おもしろいと思ったタイトルの本』って言ったんじゃなかったっけ?」

カウンターの中からわたしが尋ねた。

 

「そうですけど、タイトルだけ見ておもしろいかどうかなんかわかりませもん」

永島は質問したわたしだけではなく、桃にも視線を送りながら答えた。

 

桃はわたしに視線をやって、続きを話すように合図した。

「部長さんは『サモアさんがタイトルを見ておもしろいって感じるもの』を探すように言ったんじゃない?

タイトルだけで興味をそそられるようなって意味で」

 

「あ!そうか!」

永島がただでさえ大きな目をさらに大きく開いて、背筋まで伸ばして小さく叫んだ。

 

「そうやったんですね、明日もう一回本屋さんに行ってみよ」と言い出した永島に

「本屋はもうええわ!」と桃がツッコミ口調で制した。

 

永島は不思議そうに桃を見る。

 

桃は座りながら椅子を左に回転させ、体ごと永島に向きを変えて、姿勢を整えた。

 

「自己啓発書はもう読まんでもええ」

桃は真正面から永島の目を見て、静かに言った。

 

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

  1. 第三章 営業  17

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