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せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

第三章 営業  8

「“営業には間違いはあるけど正解はない”と、個人的には思ってる」

桃の言葉に永島が聞き入る。

 

「よく『営業が上手くなる方法とゆうかコツみたいなもんを教えてくれませんか』って聴かれることがある」

「僕もまさにそれが聴きたかったんです!」

永島の目が輝いてくる。

 

「なんて答えてはるんですか?」

これこそが永島が今日ここに来た最大の理由だ。

しかし桃の答えは永島が期待していたものではなかった。

 

「そんなんないよ」

桃はあっさり言った。

「そないに意気込まんでも話の流れでだいたいわかるやろ」

と言って桃は笑った。

 

「例えばおれは『御社』って言葉が嫌いで、なるべく使わんようにしてた。営業に行って初めて会った人にでも『永島さんとこはどないですか?』ゆうて『御社』の代わりに相手の名前を使うようにしてた」

永島はじっと桃の言葉を聴いている。

 

「まだ若かったしなんもわからんかったから距離感を詰めようと思てそないしててんけど、そんな若手社員をかわいがってくれて仕事くれはる人もおった反面、なれなれしい思われて敬遠されることもやっぱりあったわ。人間同士やから当然相性もあるからね」

永島は微動だにしない。

 

「さっきのサモア君の営業スタイルやけど、『なんでもやります』は普通やったらありえへんねん。何をやってる会社なんかぼやけてしまうからな。先代はバブルの頃やろうから通用しただけやと思う。逆にその頃はその人やったらどんなスタイルでも成功してはったんやと思うわ。先代は営業のスタイルなんかやのおて、自身のバイタリティで会社を大きいにしはったんやと思うからな」

そこで初めて永島は小さくうなづいていた。

 

「『なんでもやります』やのおて『うちはこれでは負けません』てスタイルで行きましょうってのが、たいがい本に書いてあったりコンサルとかがゆうこっちゃ」

「はい。そう書いてる本もありました」

永島が返事をする。

 

「どっちも間違(まちご)おてへん思うねん。本やコンサルのゆう通り『うちはこれでは負けません』ゆうて営業してて、『ちょうどそれが出来るとこ探してましてん』ゆう会社に当たるかも知らん。逆に若社長の指示通りに『なんでもやります』ゆうて飛び込んだ先が『なんでも出来るとこ探してた!』てゆわはるかも知らん」

「ぼくの方が確率低そうですね」

「どっちもどっち違(ちゃ)うか」

そう言って桃は笑った。

 

「おれは飛び込みで営業に来られんのん嫌いやけど、飛び込みしてくるなんてその度胸が気に入った!ゆうてくれはる人がいてはるかも知らん」

「ありますかね」

「ないとは言い切れん」

「そないゆうたらそうですけど」

永島の歯切れが悪い。

 

「要は営業なんて突き詰めれば“運”と“タイミング”やゆうことやねん」

「なんか元も子もないような結論ですね」

「でも事実やもん。その本に書いてあるような魔術師みたいな営業マンがものすごいテックニックを駆使して売り込みかけてきてはったとしても、それが欲(ほ)しない時にすすめられても必要ないもんはやっぱりいらんやん?」

「そないゆうたらそうですけど・・・」

永島はやっぱり納得できないという顔になる。

 

「何が言いたいかとゆうと、どんな敏腕営業マンも“あかん時はあかん”ゆうことや。そこはサモア君みたいなダメダメゴミクズ営業マンも一緒やねんから落ち込む必要はない」

「そこまでは卑下してなかったですけど、ゆうてはることはわかります」

「わかってくれる?ゆうてみたら二人でエキスポシティにあるケンタッキーの食べ放題に行って死ぬんちゃうかゆうほど食べまくった直後にやな、その魔術師営業マンが急に出てきて『今から焼き肉の食べ放題に行きましょ!』ゆわれたみたいな感じやな」

「あ、それなら僕行ってしまいますね」

「行くんかいっ!」

思わずつっこんでしまったのはわたしだった。

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鈴琴 皐月

鈴琴 皐月

せんどうらっぽ〜インドにもチベットにも行かずに自分探しが出来た話〜

小説家・WEBライター/ 「せんどうらっぽ」は大阪の下町にある一軒のスナックを舞台に、 そこに訪れた若手ダメ営業マンの成長物語。

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