「桃ちゃん、サモアさんにその例えは逆効果満点やわ」
わたしは桃に忠告した。
「ホンマやな。サモア君に食いもんの例えはあかんな」
桃も楽しそうに笑っている。
「そんな話ししてたらお腹へってきましたわ。残ってるたこ焼きもろていいですか?」
「いやそらかまへんけど、ホンマにもう腹へったん?」
「まぁ小腹がすいたって感じなんで1パックだけで大丈夫です」
「16個は小腹の量違(ちゃ)う思うけどな」
桃は感心しきりだ。
「あっためようか?」
わたしが声をかけると、永島は「大丈夫です」とすぐさま断った。
「ええ感じに冷めたころやと思うんで、やっと丸ごと口に入れられます」
「なるほど。もうやけどする心配はなさそうやな」
「口の中をたこ焼きでいっぱいにしたいんですよ」
「まぁわからんでもないわ」
「いただきます!あぁめっちゃしあわせですわぁ!」
永島は言葉通り、口の中に一度に二つもたこ焼きを頬張った。
「ええ顔して食べてるわ」
桃もすっかり母の顔になっている。
「でもあれですね」
永島が行儀悪く食べながら話し出した。
「食べ終わるまで待っとったるがな」
桃がたしなめる。
「いや、時間もったいなんで。そんならダッシュで食べてしまいますね!」
「まず食べ切らんでもええんやけどな」
呆れながら言う桃の言葉を尻目に、永島はあっという間に計3パック目をたいらげた。
「まぁええ食べっぷりやわ。この後もう誰も来(け)えへんかったら、もう残り全部持って帰り」
「やった!ありがとうございます」
「いや、ふたり以外お客さん来(け)えへんかったら店が困るよ」
「来(け)えへんようにお祈りしときますわ!」
「塔子ちゃんとサモア君のどっちの念が強いかやな」
「負けませんよ!塔子さん!」
「たこ焼きはどうでもええねん。さっきなんか言いかけとったん違(ちゃ)うん?」
お腹だけではなく頭までたこ焼きで満たしてしまった永島に、わたしが本来の目的を思い出させる。
「あ、そや」
永島はそう言ってから、
「え?なんでしたっけ?」と、予想通り永島の頭の中はたこ焼きで上書きされていた。
「何を言いたかったんか知らんけど、なんか桃ちゃんに営業のことでまだ聴きたいことがあったんと違(ちゃ)うん?」
わたしの助け舟に、それでもしばらく考えるそぶりを見せてから永島は
「そうなんですよ!」とやっと思い出したようであった。
「“運”と“タイミング”ゆうんは何となく理解できたんですけど、それならなんで本の中の人たちは結果が出て僕にはさっぱり出ないんでしょう」
永島は自分の疑問を言いながら確認していくように、桃に尋ねた。
「確率はそんなに変わらへんはずやのに結果がここまで違うってことは、なにか決定的に違うものが他に何かあるってことでしょうか」
「もちろん。明確に違いはある」
桃は冷静に言い放った。
「なにが、ってゆうかどこが違うんですか?いやむしろそれを最初に教えて欲しかったですわ」
永島の欲しがる速度が上がってきた。
「まぁまぁ落ち着いて、サモア君。順番やんか」
「順番?」
「そやで。まずは君が決してサボってるわけやなくて、ちゃんとがんばってるんやってことを自分にも認識して欲しかっただけ」
「がんばってますかね」
「がんばってるやろ?断られても追い返されても愚直に飛び込み営業を続けてるし、こうやって自分のプライベートの時間を削っておれの話を聴きに来てる」
「でも会社では『結果が伴わへん努力はなんもしてへんのと一緒や』って言われてます」
「もちろん部活してるんやのおてプロやからな。結果を出してなんぼゆうのは間違いやないな」
「やっぱりそうですよね。やっぱりもっともっと飛び込んで行かなあかんゆうことですよね。努力がまだ足りてないゆうことですかね」
永島が思い詰めたようにカウンターの一点を見つめながら、言った。
「努力が足りてへんとは思てへんで。要は努力の方向なん違(ちゃ)うか?」
「努力の方向?」
桃の言葉に、永島が顔を上げた。